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横浜家庭裁判所 昭和48年(少ハ)9号 決定

少年 K・O(昭二九・一・二四生)

主文

本件申請を棄却する。

理由

第1小田原少年院長の申請要旨

本人は、昭和四七年五月一日横浜家庭裁判所において中等少年院送致決定を受け、同月四日八街少年院に収容されたが、暴力行為、生活不良などの反則行為が続いたため、同年一〇月一七日小田原少年院に移送され、現在引続き矯正教育を受けているもので、昭和四九年一月二三日少年院法第一一条第一項に定める期間満了となるが、以下のとおり同日からなお三か月収容を継続する必要がある。すなわち、本人は、当院収容後も反則行為を犯し、作業や学習に対する積極性が乏しいなどの問題行為が見受けられたほか、その性格も自己顕示性が強く、規範意識、社会的責任の自覚、自己統制力、洞察力に欠けるなど社会性の発達は遅滞しており、性行の偏りは大きく、又、出院後本人は、母親と共に住居し、その従兄のもとで稼働することになつているが、入院前の行状、非行化の経緯と程度などに照らして、保護者の指導能力にも限度があるといわなければならない。そこで、出院後は、専門的なケースワーカーによる援護指導を通して、環境調整を図ると共に、勤労意欲や自己洞察を深め、本人の犯罪的傾向をできるだけ矯正し、社会適応性をうえつける必要があるので、少年院法第一一条第二項により本人の収容継続を申請する次第である。なお、本人は、昭和四八年七月一日一級上に進級し、同年八月七日仮退院を申請したので、このまま順調に行けば更生保護委員会の面接を経たうえで、同年一〇月ころ仮退院する予定であるが、上記のような事情に鑑みるとき、出院後少くとも六か月以上の保護観察期間を設けるべきである。

第二当裁判所の判断

一  収容継続について少年院法第一一条によれば、少年院の在院者の心神に著しい故障があり、又は犯罪的傾向がまだ矯正されていないため少年院から退院させるのが不適当である場合、一定の期間を定めて収容を継続すべき旨の決定をしなければならないと規定している。ところで、本人の犯罪性認定の一資料として本人の性格、行動傾向、心神の状況、少年院の処遇成績だけでなく、本人の帰宅先や受入れ態勢など出院後の一定の諸事情をも考慮すべきであり、従つて、仮退院後の保護観察に対する配慮を払つて右収容を継続すべき期間を定めることは、当然に是認されるものと考える。しかしながら、専ら出院後の保護観察期間の延長のみを目的とする収容継続については、現行の少年保護法には規定がなく、ただその保護処分的性格に鑑みて肯認されるものと解するわけであるが、この場合、これが本当に本人の自由の拘束とならず、しかもかかる措置を講ずる必要性が存するなど特徴の事由が存しなければならない。

二  当裁判所の調査審判の結果によれば、次の事実が認められる。

少年は、昭和四七年五月一日当家庭裁判所において中等少年院送致決定を受け、同月四日八街少年院に収容されたが、同年七月一二日三度に及ぶ暴力行為が発覚して謹慎二〇日、三級下降の処分を受け、又、同年一〇月一一日生活不良により説論の処分を受けるなど反則事故を繰返したため、同少年院における処遇は困難となり、同月一七日特別少年院である小田原少年院に移送され、同少年院における矯正教育を受けることとなつた。しかしながら、それ以降においても、昭和四八年二月六日けんかにより謹慎七日間の処分を受ける反則事故を引き起したほか、作業や学習などに対する意欲は低く総合的な成績は必ずしも良好とは評しえなかつたが、最近は努力して抑制に努め、反省と自覚の度を高めるなどようやく安定した生活を送るようになつたことから、昭和四八年四月一日一級下に進級し、次いで同年七月一日処遇の最高段階である一級上に進級するなど順調に矯正指導の実を挙げており、同少年院は、少年の成績および他少年との均衡上の諸観点より同年八月七日仮退院申請の手続をとり、同年九月一二日更生保護委員会の面接調査も了したので、このまま順調に経過すれば、同年一〇月一七日ころ本人を仮退院させる予定である。

ところで、母親は、少年の在院中幾度となく面会に来ているものの少年に更生への自覚を高めるという姿勢に乏しく、依然過保護的態度を払拭できず、社会復帰後の保護者の監護的措置に一抹の不安が感ぜられるところであるが、受入れ態勢についてみると、出院後少年は、横浜市戸塚区○○町×××番地において家庭電気店を経営する母親の従兄のもとをその就職先と決定しており、しかもこれは少年の希望、資質、環境などを十分考慮したうえで開拓したものであつて、同人も母親の意を汲んで少年の監護更生に努める方針を固めているなど一応整つているように見受けられる。又、これまで母親らの過保護、溺愛的態度が少年の自己および欲求統制力、自律性などを失わせ非行化への要因となつていたが、保護者においてもその点を自覚し、今後は保護司らとの疎通を密にして適切な援護指導を行うように保護能力を強化することを約しているなど保護環境も改善されており、今後の措置に期待がもてる。一方、少年の性格上の欠陥としてこれまで指摘されていた社会的責任、規範意識、建設性の欠如、自己中心的、自己顕示的、軽佻さといつた面は、未だ十分に矯正されたとは言い難く、これに従前の行状と生活態度などを合わせ考えてみるとき、なお不安なしと断じえないけれども前記のとおり少年は向上意欲を強くし、その言動にも十分責任を負う気持が窺われるなど少年の自己確知と自己抑制力は、従来に比すれば進捗のあとが窺え、かなりの程度に開発されるに至つたものと考えられる。

三  以上のような事情に鑑みれば、少年の社会復帰後の行動に不安な面がないわけではなく、その保護観察期間(約三か月)も十分であるとは断じえないが、むしろ、これを延長するよりは、少年院教育において開発された少年の自覚と自己抑制を信頼したうえで、各関係機関の積極的かつ建設的な指導監護を施すことが、社会人としての自覚と責任のもとに自主的努力による自己開発をより可能にすると思料されるので、収容を継続(保護観察期間の延長)すべき特段の事由も見出すことはできない。よつて、本件収容継続申請は、これを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 星野雅紀)

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